| 【急増中】クリックフィックスとは?仕組み、対策、事例など徹底解説 | |
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| 作成日時 25/10/07 (08:28) | View 2338 |

急増するサイバー攻撃の中でも、近年特に注目を集めているのが「クリックフィックス」です。
誰でも1度はCAPTCHA認証画面で「私はロボットではありません」と確認を求められた経験があるのではないでしょうか。本来であれば認証のための必要な操作なのですが、実はその裏にマルウェア感染の仕組みが潜んでいるケースがあります。
クリックフィックスは、従来のマルウェアのように不審なファイルを開かせるのではなく、ユーザー自身にショートカットキーを入力させることで感染が成立する攻撃です。つまり、セキュリティ意識の高い担当者であっても、正規の操作と思い込んで被害に巻き込まれるリスクがあります。
本記事では、クリックフィックスの仕組みや従来型マルウェアとの違い、実際に確認された被害事例、そして防止に向けた実践的な対策までを解説します。情シス担当者として押さえておきたい最新の脅威とその対処法を理解し、自社のセキュリティ体制をさらに強化する一助としてご活用ください。
クリックフィックスとは、利用者本人の操作を悪用してマルウェア感染を成立させる新しいタイプのサイバー攻撃です。特徴的なのは、従来のように不正ファイルを直接開かせるのではなく、CAPTCHA認証や追加確認手続きに見せかけて、複数のショートカットキーを押すよう誘導する点です。
具体的には、Windowsキー+RやCtrl+V、Enterキーといった組み合わせが求められ、ユーザー自身の操作を通じて攻撃者のスクリプトが実行されます。この仕組みにより、セキュリティ製品からは正規の操作として処理されやすく、検知や防御が難しいとされています。
実際、2024年に初めて確認されて以来、米国を中心に被害が拡大しており、2025年には日本語の攻撃サイトも確認されています。従来のフィッシングやソーシャルエンジニアリングの要素を組み合わせ、さらにユーザーの「自らの手で実行した」という事実を利用する点が大きな脅威です。
標準的なアンチウイルスやEDRの導入だけでは十分ではなく、従業員教育や操作の不自然さに気付かせる啓蒙活動が不可欠になります。
新手のソーシャルエンジニアリング ~急増する「ClickFix」に警戒を~
従来のマルウェアは、感染のきっかけが明確でした。添付ファイルを開いたり、不正なリンクから実行ファイルをダウンロードしたりといった行為です。この場合、セキュリティ製品は不審なファイルの存在や通信パターンを検出できます。
一方、クリックフィックスでは感染トリガーが利用者自身の正規操作に置き換えられています。
CAPTCHAを突破するために求められる追加手順、業務アプリの認証を装ったキー入力など、一見すると自然に見える流れの中に攻撃を仕込むのです。そのため、セキュリティログにユーザーが自ら実行した操作と記録され、調査の際も誤解を招きやすくなります。
従来型のマルウェアが外部から侵入する形であったのに対し、クリックフィックスは内部の利用者を操って自ら扉を開けさせることに本質的な違いがあります。この巧妙さこそが、企業にとって大きな脅威となっているのです。
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クリックフィックスの仕組みは、利用者の正規操作を攻撃トリガーとして利用する点にあります。攻撃者は偽のCAPTCHAや追加認証画面を提示し、そこに複数のショートカットキー入力を組み込むことで、不正コードの実行を誘発します。
以下では、クリックフィックスの仕組みと主な特徴を整理しましょう。
クリックフィックスの代表的な手口は、Windowsキー+Rで「ファイル名を指定して実行」画面を呼び出させ、続いてCtrl+Vで不正コードを貼り付け、Enterで実行させる流れです。この操作は一見シンプルで自然に見えるため、利用者は疑念を抱きにくいのが実情です。
実際にはRAT(リモートアクセスツール)やPowerShellスクリプトの起動が裏で行われ、端末が乗っ取られる危険性があります。
ショートカットキーによる起動は単独ではなく、PowerShellやOfficeマクロ、さらにはAutoHotKeyといった自動操作ツールと組み合わされることがあります。これにより、マルウェアのダウンロードやスクリプトの展開が円滑に実行され、遠隔操作の足がかりを与えてしまうわけです。
特にPowerShellは管理業務でも多用されるため、攻撃に利用されると見抜くのが難しいでしょう。
クリックフィックスは、ユーザー自身の操作を装うため、EDRやアンチウイルスの検知をすり抜けます。EDRがプロセス実行を記録しても、利用者の手動操作として扱われるため、異常とは判断されにくいのです。
つまり、従来のマルウェアが外部コード実行を伴うのに対し、クリックフィックスは正規機能を悪用するため、セキュリティ製品のルールやシグネチャベースの検出をすり抜けやすいという特性を持ちます。
被害者が自らキー操作を行う性質上、社内調査では「意図的に操作したのではないか」という誤解を招くリスクもあります。EDRや端末の操作ログを確認すると、利用者がWindowsキーやCtrl+Vを押した記録が残るため、攻撃の証拠が逆に利用者の責任のように見えるのです。
この特性は、攻撃の痕跡が残りにくく、被害の実態把握や内部調査を困難にします。企業としては、こうした操作が攻撃の一環であることを周知し、適切に判断できる体制を整える必要があります。
クリックフィックスの脅威に対抗するには、技術的なセキュリティ対策だけでなく、従業員教育や組織的なルール整備までを含めた多層的な防御が必要です。攻撃の本質は、利用者が自ら操作してしまう点にあるため、技術と人の両面から備えなければいけません。
以下では具体的な防止策を紹介します。
最も重要で効果的な対策は、社員に「CAPTCHA認証でキー入力を求められるのは不自然である」と認識してもらうことです。日常業務の中で出会う認証画面の多くはクリックや選択で完結するため、ショートカットキーの入力を要求された時点で異常だと気付かなければいけません。
ソーシャルエンジニアリング対策研修を導入し、不審な手順を指示された場合に拒否・報告する行動を習慣化することで被害を大幅に減らせます。
クリックフィックスの多くはスピア型フィッシングメールや偽サイトへの誘導から始まるため。初動段階でこれを防ぐことが第一の防衛線となります。
メールゲートウェイで添付ファイルや不審なURLをブロックし、Webフィルタリングで怪しいサイトへのアクセスを制御することで、利用者が偽CAPTCHAや誘導画面に触れる確率を下げられます。
業務で使われるSaaSやクラウドサービスを装ったフィッシングが多いため、フィルタリングは必須といっても過言ではありません。
従業員の操作を装ったプロセス実行であっても、その直後に不審なPowerShellやマクロ、RATが起動することは異常挙動として検知可能です。
EDRやSIEMのルールに「ユーザー操作直後のプロセス実行」を組み込み、挙動の相関関係を監視する仕組みを持たせることで、見逃しを防ぎやすくなります。単一のイベントではなく連鎖を検出すれば、クリックフィックスの特徴を捉えられます。
最後に、技術対策と並行して組織的な行動規範の明文化が不可欠です。不審な操作を求められた際には即時報告する、CSIRTに連絡する、といった具合にルールを定め、全社員に浸透させましょう。
また、キーボード入力や操作ログの保存ポリシーを策定し、調査時に利用できる環境を整えることも再発防止につながります。こうしたルールが定着することで、個人の責任ではなく組織全体で攻撃に備える体制を構築できます。
クリックフィックスの被害を受けた際は、感染拡大を防ぐうえで、初動の迅速かつ的確な対応が欠かせません。このタイプの攻撃は、利用者の操作をきっかけに発生するため、一般的なマルウェアよりも発見が遅れる傾向があります。
小さな兆候でも見逃さず、証拠を確保しながら冷静に対応することが、被害の拡大を防ぎ、原因解明への道を開きます。以下では、初動対応における具体的なステップを順に見ていきましょう。
まずは、従業員や管理者が気づける兆候を確認します。急にPCの動作が重くなる、フリーズが頻発する、普段使用しない不審なプロセスが常駐している、あるいはネットワーク通信量が異常に増加している、こうした異変が見られる場合は、感染の可能性を疑うべきです。
クリックフィックスは正規操作の直後に作動するケースが多いため、「キー入力後に端末の挙動が変わった」といった従業員からの報告は、特に重要な手がかりとなります。
兆候を確認したら、証跡を確実に残すようにしましょう。EDRやSIEMで取得できるイベントログ、端末のセキュリティログ、プロセス起動の記録を即時に保存してください。
キー入力の時刻と、その後に実行されたプログラムのタイムスタンプをセットで残すことで、後の調査に役立ちます。証拠が失われると感染経路が不明瞭になり、再発防止策の策定が困難になるため、初動でのログ保全は欠かせません。
感染の疑いがある場合は、個人の判断を避け、速やかに社内で定められた報告フローに従いましょう。CSIRTが設置されている場合は、直ちに連携を図り、状況に応じて外部のインシデントレスポンス(IR)ベンダーへの支援依頼も視野に入れるべきです。
被害を最小限にとどめるためには、関係部署への早期周知も欠かせません。他の利用者が同様の手口に引っかからないよう、全社的な注意喚起を迅速に行うことが重要です。
対応が一段落した後は、再発防止に向けた仕組みの整備に取りかかります。被害事例を社内で共有し、不審な操作を求める画面のスクリーンショットを記録として残しておけば、教育資料としての活用が可能です。
取得した操作ログや調査結果をもとに、EDRやSIEMの検知ルールを見直すことで、次回以降の迅速な対応につなげられるでしょう。被害を一過性の対応で終わらせるのではなく、全体のセキュリティ対策を強化する契機として活用する姿勢が重要です。
2025年5月、ポルトガルの政府機関、金融、交通分野の組織を標的としたLampionマルウェアを用いた攻撃が確認されました。この攻撃では、利用者の操作をきっかけに感染が進行するクリックフィックスの手法が用いられています。
その後、スイス、ルクセンブルク、フランス、ハンガリー、メキシコなどにも拡大し、教育機関や公共サービスも標的となりました。攻撃は段階的に進み、まずZIPファイル付きのフィッシングメールが送られます。
添付のHTMLファイルを開くと、偽の税務当局サイトに誘導され、PowerShell経由で難読化されたスクリプトが複数回にわたってダウンロードされます。最終的には、起動時に自動実行されるコマンドファイルが作成され、DLLを通じてマルウェアの本体が展開される仕組みです。
ただし、調査時点ではLampion本体のダウンロード命令がコメントアウトされており、実際の感染には至っていませんでした。
クリックフィックスはまだ比較的新しい攻撃手法であるため、情シス担当者の間でも疑問が多く寄せられています。ここでは代表的な質問に簡潔に答えます。
クリックフィックスは、利用者のショートカットキー入力を誘導してマルウェアを実行させるサイバー攻撃です。正規のCAPTCHA認証や追加認証に見せかけるため、利用者自身の操作として処理されるのが特徴です。
典型的には「私はロボットではありません」といったCAPTCHA画面の後に、Windowsキー+RやCtrl+Vの入力を促すメッセージが表示されます。ほかにも業務アプリの更新や追加認証を装うケースが確認されています。
PowerShellスクリプトやRAT(リモートアクセスツール)、AutoHotKeyを利用した自動操作が多く見られます。これによりマルウェアのダウンロードや不正な情報窃取が実行されます。
ユーザーが自ら操作した形で不正コードが実行されるため、EDRやアンチウイルスは正規操作と誤認することが多いためです。ファイルレス攻撃の性質を持ち、既存の検知ルールでは見逃されやすいことが要因です。
クリックフィックスは、利用者の正規操作を悪用するという性質から、攻撃の成功率が高く、今後さらなる拡大が懸念されます。攻撃者は、CAPTCHAの偽装にとどまらず、業務アプリの更新通知やクラウドサービスの追加認証を装うなど、シナリオを巧みに変化させています。
警戒すべきは、窃取された情報がダークウェブ上で売買されるリスクです。クリックフィックスによって抜き取られるのは、業務用アカウントの認証情報や個人データ、さらには金融関連の情報にまで及ぶことがあります。
こうしたデータは攻撃者の間で高く評価され、ダークウェブのマーケットプレイスやフォーラムで流通することで、新たな攻撃や不正アクセスの引き金となりかねません。一度被害に遭えば、自社システムだけでなく、取引先や顧客にまで影響が波及するおそれがあります。
このような背景を踏まえると、基礎的なセキュリティ対策に加えて、ダークウェブでの情報流通を監視する体制の整備が求められます。クリックフィックスのような新たな攻撃が広がる今こそ、外部リスクを見逃さないための備えが不可欠です。