病院のVPNが危ない?サイバー攻撃を防ぐための対策とリスクを解説 | |
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作成日時 25/09/09 (08:41) | View 49 |
医療機関に対するサイバー攻撃が急増している中、特に多くの病院で狙われているのがVPN(Virtual Private Network)からの侵入です。外部から内部ネットワークにアクセスできる利便性の裏側で、VPNはサイバー攻撃の裏口にもなり得る存在です。実際に、国内外でVPNの脆弱性を突かれた病院が業務停止に追い込まれる事例が後を絶ちません。
“医療機器や電子カルテが使えなくなる、診療が全面的に止まる。”
そのような状況に陥ってからでは手遅れです。VPNにどのようなリスクがあり、なぜ病院が標的にされやすいのかを知ることが、被害を未然に防ぐ第一歩となります。
この記事では、病院が抱えるセキュリティ上の課題、VPNの盲点、そして代替策となるZTNA(ゼロトラスト・ネットワーク・アクセス)の可能性までを徹底的に解説します。今、あなたの病院の情報を守るために、必要な知識と対策をここで整理しておきましょう。
医療機関がサイバー攻撃のターゲットになる理由について、改めて考えたことはあるでしょうか。多くの方が「病院だから大丈夫」と思いがちですが、実際には医療現場はサイバー攻撃のリスクが極めて高い領域です。
攻撃者にとって病院は、価値のあるデータと交渉力の低さがそろった狙いやすい存在になっています。
では、なぜこれほどまでに病院が狙われるのでしょうか。その背景には、医療機関ならではの構造的な弱点や業界特有の事情が存在します。以下では、主に3つの視点から病院が標的になりやすい理由を解説していきます。
病院が扱う医療データは、攻撃者にとって価値の高い情報です。たとえば、氏名や住所だけでなく、病歴、保険情報、支払い履歴など、個人のセンシティブな情報が一括で保管されています。こうしたデータはダークウェブで高値で取引されるほか、身代金を要求する材料としても有効です。
実際にランサムウェア攻撃の際には、「復旧しないと患者の命に関わる」と病院側に精神的な圧力をかけることで、高額な身代金を引き出すケースがあります。つまり、病院は支払わざるを得ない状況に追い込まれやすく、犯罪者にとっては効率の良いターゲットとされているのです。
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病院や医療機関は、攻撃を受けた際の交渉においても弱い立場に置かれがちです。
業務停止が直接的に人命に関わるため、企業のように一時的なサービス停止で対応する余地がありません。加えて、医療機関はサイバーセキュリティの専門家が居ないケースが多く、攻撃者との交渉経験も乏しいのが実情です。
その結果、「迅速に復旧したい」「患者への影響を最小限にしたい」といったプレッシャーの中で、やむなく攻撃者の要求に従ってしまうケースが後を絶ちません。攻撃者から見れば、病院は反撃してこない、交渉も長引かない、という都合の良い相手になってしまっているのです。
多くの医療機関では、IT部門の人員が限られており、サイバーセキュリティに十分な時間や予算を割くことができていません。特に地方の中小規模病院では、システム管理者が他業務と兼任している場合も多く、最新の脅威に対応する体制が整っていないケースが見受けられます。
また、セキュリティ対策にかける予算が限定されているため、古い機器や未更新のソフトウェアが使われ続けることも少なくありません。こうした状況では、攻撃者が侵入するための隙が多く残っており、サイバー攻撃に対して無防備な状態が常態化しているのです。
多くの病院では、外部との安全な通信手段としてVPNが導入されています。VPNは一見すると、外部から内部システムへアクセスするための安全な通路のように思えるかもしれません。しかし、設定や運用方法に問題がある場合、VPNはむしろ重大なセキュリティリスクを引き起こす抜け道にもなり得るのです。
ここでは、VPNを利用することによって病院が直面する3つの主なリスクについて解説します。
VPNの安全性は、アクセス認証の強度に大きく依存します。しかし、現場では初歩的なミスが少なくありません。たとえば、以下のような設定がそのまま運用されているケースがあります。
l IDとパスワードが「admin/admin123」といった単純なもの
l 多要素認証(MFA)が導入されていない
l 退職者や委託業者のアカウントが有効なまま放置されている
このような状態では、攻撃者にとっては突破しやすいターゲットとなります。特に最近では、OSINT(オープンソースインテリジェンス)ツールを使えば、インターネット上に公開されているVPNのポート(例:PPTP、OpenVPN)を簡単に特定することが可能です。アクセス認証が甘ければ、そのまま病院の内部ネットワークに侵入されてしまう恐れがあります。
VPNの本質的なリスクは、信頼していたはずの端末がマルウェアに感染していた場合に、被害が一気に拡大する点にあります。たとえば、ある職員のノートパソコンが自宅でランサムウェアに感染した状態でVPN接続された場合、その端末は院内ネットワークと直接接続されてしまいます。
その結果、マルウェアは電子カルテ、会計システム、検査機器、予約管理など、あらゆる院内システムに広がり、病院の機能を停止させることになりかねません。VPNは本来安全なトンネルのはずですが、現実にはマルウェアを病院内に運び込むトロイの木馬のような役割を果たしてしまうのです。
医療機器メーカーや保守業者など、外部の取引先がVPNを使って病院システムにアクセスすることも珍しくありません。しかし、この外注先のセキュリティ対策が不十分だった場合、リスクは一気に跳ね上がります。
たとえば以下のようなケースです。
l 業者の社員が自宅の個人PCから病院ネットワークへVPN接続
l 社内でマルウェアが蔓延していたが病院に報告せず
l VPNの認証情報を複数の端末や社員で使い回していた
このようなケースでは、病院が直接攻撃を受けたのではなく、外注業者を経由して侵入されたことになります。
警察庁の調査によれば、病院を含む組織で発生したランサムウェア感染のうち、約46%が「VPN経由」で侵入されたと報告されています。つまり、VPNがセキュリティ対策の盲点になっている可能性は決して低くありません。
実際に日本国内でも、VPNの脆弱性を突かれた事例が複数報告されています。
たとえば、徳島県つるぎ町立半田病院はVPN機器の脆弱性を悪用され、ランサムウェアに感染しました。電子カルテを含む院内システムがすべて停止し、1か月以上にわたって手書きでの診療対応を余儀なくされました。復旧には莫大な費用と時間がかかり、地域医療に多大な影響を与えたケースとして知られています。
こうした事例は、VPNの導入自体が悪いのではなく、設定や運用、保守体制に問題がある場合に、逆にリスクを高めてしまうことを示しています。とくに医療現場では、一度攻撃を受ければ診療の継続に深刻な支障が出るため、VPNの運用にはより高いレベルのセキュリティ意識が求められます。
病院へのランサムウェア攻撃の事例は以下記事で詳しく解説しています。
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VPNは医療現場で欠かせない通信手段である一方で、適切な対策を講じなければ、重大なサイバーリスクにつながる可能性があります。特に病院では、患者の命に直結する情報やシステムを扱っているため、万が一の攻撃を未然に防ぐ体制づくりが不可欠です。
ここでは、病院がVPNを安全に活用するために取るべき基本的なセキュリティ対策を5つ紹介します。いずれも比較的導入しやすいものですが、意外と実施されていないケースも多いため、今一度自院の運用を見直す参考にしてください。
IDとパスワードだけに依存した認証は、攻撃者にとって格好の標的になります。そのため、スマートフォンアプリや物理セキュリティキーを活用した多要素認証(MFA)の導入は必須です。
たとえば、病院内の職員がVPNに接続する際、パスワードに加えて、ワンタイムコードや生体認証を求めることで、たとえID情報が漏洩しても不正アクセスを防止できます。MFAの実装は比較的コストも低く、導入効果が高いため、真っ先に着手すべき対策です。
VPNを通じて院内ネットワーク全体にアクセスできる設計は、感染拡大のリスクを高めます。そのため、利用者が直接業務システムに接続するのではなく、まず中継用サーバ(ジャンプサーバ)を経由させる構成に変更しましょう。
これにより、外部端末がマルウェアに感染していても、直接的に病院の主要システムに侵入されるリスクを減らすことができます。セグメントごとのアクセス権を設定することも有効です。
誰が・いつ・どこからVPNにアクセスしたのかを記録し、常時監視する体制も重要です。
ログ管理ツールやSIEM(セキュリティ情報イベント管理)を用いることで、異常なアクセスや不審な接続元を早期に検知し、アラートを発出することが可能になります。特に、深夜帯のアクセスや海外からの不自然な接続は、インシデントの兆候である可能性があるため、即時対応できる監視体制の整備をしましょう。
VPNに接続する端末が安全でなければ、どれだけ通信が暗号化されていても意味がありません。そのため、端末にウイルス対策ソフトがインストールされているか、OSやアプリのセキュリティパッチが最新かどうかを自動でチェックし、条件を満たさない場合は接続を遮断する仕組みが必要です。
最近では、接続前に端末の状態をスキャンするヘルスチェック機能付きのVPN製品も増えており、こうした機能を活用することでリスクを低減できます。
VPN機器やソフトウェアは、定期的にアップデートを行わなければ、脆弱性を突かれるリスクが高まります。特に古いVPN製品では、既知の脆弱性が放置されたまま運用されているケースがあり、これが攻撃の入り口になることも少なくありません。
セキュリティパッチの適用状況を定期的にチェックし、サポートが終了している製品は早急に入れ替えることが大切です。長期的には、運用の簡素化と安全性向上のために、クラウド型VPNやZTNAへの移行も視野に入れると良いでしょう。
これまで多くの医療機関がリモートアクセス手段としてVPNを採用してきました。
しかし、近年のサイバー攻撃の高度化と巧妙化により、VPNだけでは十分な防御が難しくなってきています。こうした背景の中、注目されているのが「ZTNA(ゼロトラスト・ネットワーク・アクセス)」という新しいセキュリティモデルです。
ZTNAとは、従来のVPNのように一度アクセスが許可されるとネットワーク全体に接続できる仕組みではなく、「誰が、どこから、どの端末で、どのシステムにアクセスしようとしているのか」をリアルタイムに評価し、その都度アクセス可否を判定する仕組みです。つまり、すべての通信は疑ってかかることを前提とした考え方です。
たとえば、ZTNAを導入すると次のような制御が可能になります。
l 職員が私物のスマートフォンからアクセスしようとしても、端末が業務用でないとブロック
l 接続先が業務に関係のないシステムだった場合は、自動的にアクセス拒否
l アクセス中に端末のセキュリティ状態が変化したら、自動で切断
このようにZTNAでは、ネットワークに入れてから制御するのではなく、そもそも入れさせない設計思想に基づいています。これにより、万が一マルウェアに感染した端末が存在しても、病院ネットワーク全体への拡散を防ぐことが可能です。
さらに、ZTNAはクラウドベースで提供されることが多く、オンプレミスのVPN機器に依存しない点でも運用管理がしやすいというメリットがあります。今後は、病院においてもZTNAへの移行を検討することが、より強固で柔軟なセキュリティ体制の構築につながるでしょう。
VPNは病院にとって重要なインフラである一方、サイバー攻撃の入口となるリスクも抱えています。実際、VPNの脆弱性を突かれた医療機関が、ランサムウェアや情報漏洩の被害に遭うケースは国内外で増加しています。
攻撃者がVPNを狙うのは、院内ネットワークへ外部から直接アクセスでき、設定や運用体制に不備があることが多いため、攻撃が成功しやすいからです。さらに、VPN経由で侵入したマルウェアは、電子カルテや検査装置、会計システムなど、病院内のあらゆるIT機器に拡散する恐れがあり、1台の感染で全体が停止する事態も起こり得ます。
このようなリスクを踏まえ、VPN利用にはアクセス制御、認証強化、端末管理、ログ監視など総合的な対策が不可欠です。将来的には、ZTNAのような高度なセキュリティモデルへの移行も検討すべきでしょう。
加えて、ダークウェブ上での情報流出を早期に察知する体制も重要です。実際、流出が発見されずに二次被害へと発展するケースは少なくありません。
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