ZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)とは? VPNとの違いや導入メリット・注意点を徹底解説 | |
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作成日時 25/09/16 (08:45) | View 36 |
リモートワークの普及とクラウド活用の加速により、従来のVPNだけではセキュリティを維持しきれないと感じている方も多いのではないでしょうか。特に情シス担当者にとって、VPNの設定ミスや運用負荷、内部不正への対処といった課題は年々深刻化しています。
こうした状況の中で注目を集めているのが、ZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)という新しいアクセス制御モデルです。ZTNAは「すべてを信頼しない」ことを前提に、ユーザーやデバイス、アクセス先を都度検証し、最小限のアクセスのみを許可します。つまり、万が一の侵入や内部不正があっても、被害の拡大を最小限に抑えられる構造です。
本記事では、ZTNAの基本からVPNとの違い、導入メリット、具体的な導入手順、さらにはZTNAが向いている業界までを情シス担当者の目線で徹底解説します。自社のセキュリティ運用を見直し、次の標準を見据えるための判断材料として、ぜひ最後までお読みください。
社外から社内ネットワークへ安全にアクセスする手段として、多くの企業でVPN(Virtual Private Network)が導入されてきました。しかし、クラウド利用の拡大や働き方の多様化により、VPNの限界が明らかになりつつあります。ここでは、従来型VPNが抱える主な課題について解説します。
VPNによるネットワーク全体への接続
VPNは一度接続されると、ユーザーは社内ネットワーク全体にアクセスできる構造になっています。これは、社員がオフィス内にいることを前提とした「境界型セキュリティモデル」に基づいているためです。
ところが、リモートワークの普及など働き方の変化によって社外からの接続が当たり前となった今、このモデルでは外部からの侵入を防ぎきれません。
たとえば、マルウェアに感染した端末がVPNを介して社内に接続した場合、社内の他のシステムやファイルサーバに自由にアクセスできてしまう可能性があります。つまり、VPNはネットワークへの入り口を守る一方で、内部の動きまでは制御しきれないという構造的なリスクを抱えているのです。
アクセス認証や設定ミスの可能性
VPNは一般的にID・パスワードによる認証を採用しており、多要素認証(MFA)や端末認証が導入されていないケースも少なくありません。認証情報が漏えいしたり、社員が私物PCから接続したりすれば、正規のユーザーになりすまして社内ネットワークに入り込むことが可能になります。
さらに、VPN接続の設定は手動で行うことも多く、設定ミスや更新漏れといった人為的ミスによって、セキュリティホールが生まれる危険性も無視できません。特に中堅企業では、情シスの人員やリソースが限られており、管理工数の増大も課題になります。
動的なログ監視や繰り返し認証の不足
VPNは接続時の認証は行うものの、その後のアクセス行動や利用状況を動的に監視する機能は限定的です。接続後にどのようなアプリケーションを利用したのか、不審なアクセスが発生していないかといった振る舞いベースの監視は、別途SIEMなどのソリューションを用意しなければなりません。
また、多くのVPNは一度接続するとセッションが長時間維持され、ユーザーが離席していてもアクセスが切断されない設計のものもあります。これにより、第三者による不正操作や情報漏えいのリスクが高まります。
VPNの限界が明らかになる中、次世代のアクセス制御モデルとして注目を集めているのがZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)です。従来の一度つないだら信頼する前提をやめ、「すべてのアクセスは信頼せず、常に検証する」という考え方に基づいています。ここでは、ZTNAの基本概念と仕組みについて解説します。
ゼロトラストとは
ゼロトラストとは、社内外を問わず、すべてのアクセスや通信に対して「信頼しない」ことを前提としたセキュリティモデルです。従来のように社内ネットワークに入ったユーザーを一律に信頼するのではなく、ユーザー属性、デバイスの状態、アクセス先、時間帯など、あらゆる要素を常にチェックし続ける姿勢を取ります。
たとえば、社員が会社支給のノートPCで社内にいる状態でも、ログイン情報や接続元を毎回検証し、一定条件を満たさなければアクセスを許可しません。このように、ゼロトラストは「すべてを疑う」という立場を取りつつ、必要に応じた最小限のアクセスを許可するというアプローチです。
この考え方は、クラウドサービスの普及、リモートワークの常態化、サプライチェーン攻撃の増加といった、現代の多層的な脅威に対応するために欠かせない基盤となっています。
ZTNAの仕組み
ZTNAは、ゼロトラストの考え方をネットワークアクセスに具体的に落とし込んだ仕組みです。ユーザーが特定の業務アプリケーションへアクセスする際、まずZTNAコントローラーがそのユーザーの認証・デバイス状態・場所・時間などをチェックし、定義されたセキュリティポリシーと照合します。
この過程で条件が満たされていれば、ZTNAはそのアプリケーションへの接続を許可しますが、それ以外のリソースにはアクセスできません。つまり、アプリ単位での最小アクセスが実現されるのです。
さらにZTNAでは、セッションごとに個別の接続を生成するため、従来のVPNのようにネットワーク全体を共有する構造になっていません。加えて、アクセス状況のログ取得やリアルタイムの異常検知も行えるため、可視性と制御性が格段に高まります。
たとえば、営業部の社員がSFA(営業支援ツール)だけにアクセスできるようにし、ファイルサーバや基幹系システムにはアクセスさせないといった細かな制御が可能です。
ZTNAとVPNはいずれもリモートアクセスを実現する手段ですが、その考え方と仕組みには決定的な違いがあります。VPNが「すべてをつなげる」モデルであるのに対し、ZTNAは「必要なものにだけつなげる」モデルと捉えると理解しやすくなります。
以下に、ZTNAとVPNの主な違いを表で整理しました。
比較項目 |
VPN |
ZTNA |
アクセス方式 |
ネットワーク単位で接続(社内LANに入れる) |
アプリケーション単位で接続(必要なものだけ) |
アクセス制御 |
認証後は全社内ネットワークにアクセス可能 |
アクセス都度ポリシー判定、最小アクセスのみ許可 |
セキュリティ前提 |
境界型防御(内部は安全という前提) |
ゼロトラスト(内部も信頼しない) |
ユーザー体験 |
通信遅延、VPN接続の手間が発生しやすい |
クラウド直結で高速、トンネル不要 |
セッション管理 |
一度接続したら継続(ログインしっぱなし) |
アクセスごとに検証、短時間セッションも可 |
可視性・監視 |
ネットワークレベルの監視が中心 |
ユーザー・アプリ単位での詳細ログ取得が可能 |
運用負荷 |
VPNソフト配布・設定・保守が必要 |
クラウドベースなら配布・更新が不要 |
このように、ZTNAは単なるVPNの代替ではなく、根本的に異なるセキュリティ哲学に基づいた仕組みです。従来のVPNでは守りきれない多拠点・クラウド時代において、ZTNAはより現実的かつ柔軟な選択肢となっています。
ここでは、ZTNAを導入することで得られる具体的なメリットを整理します。
内部不正・マルウェア感染時の被害を最小化
ZTNAは、最小権限アクセスを徹底することで、万が一内部不正やマルウェア感染が発生した場合でも、被害の拡大を最小限に抑えられます。従来のVPNでは一度接続されると、社内ネットワークの広範なリソースにアクセスできるため、攻撃が横方向に広がりやすいという課題がありました。
一方ZTNAでは、特定の業務アプリケーションにだけピンポイントで接続が許可されるため、仮に攻撃者が1ユーザーのアカウントを乗っ取っても、そこから社内の他のシステムにアクセスするのは困難です。つまり、ZTNAは被害の連鎖を断ち切る構造になっているのです。
テレワーク・BYODでもセキュリティを確保
在宅勤務や外出先での作業、さらには個人所有デバイス(BYOD)を利用した業務など、従来の社内ネットワークの枠にとらわれない働き方が定着しています。こうした環境では、VPNのような社内接続前提の仕組みでは柔軟に対応しきれません。
ZTNAは、デバイスの状態やユーザーの属性、接続元のIP情報などをもとに、個別にセキュリティポリシーを適用できるため、どこからアクセスしても安全性が担保されます。さらに、VPNのようなトンネル構築や専用ソフトのインストールが不要なケースも多く、ユーザー体験も向上します。
たとえば、社外のWi-Fiからクラウドストレージにアクセスする場合でも、ZTNAがユーザーの属性と端末のセキュリティ状態を確認し、ポリシーに合致すれば即時アクセスが許可されます。このように、ZTNAは場所や端末を問わない柔軟性と高いセキュリティを両立します。
運用負荷とネットワークコストの軽減
ZTNAは運用の効率化にも大きく貢献します。
VPNではクライアントソフトの配布やバージョン管理、接続トラブルへの対応など、情シス部門にかかる負荷が大きくなります。また、VPNサーバの冗長化や帯域確保にもコストがかかります。
ZTNAはクラウドベースで提供されるものが多く、クライアントレスで運用できるタイプも存在します。設定やポリシーの更新もブラウザから一元管理できるため、拠点やユーザーごとに個別対応する必要がなく、情シス担当者の手間を大きく削減できます。
加えて、不要なネットワークトラフィックも減少し、全体の通信コストの見直しにもつながります。
ZTNAは、すべての企業にとって有効なセキュリティ対策ですが、特にその効果が発揮されやすい業界や導入シーンがあります。ここでは、ZTNAの導入が特に推奨される業界やユースケースを紹介します。
金融、医療、製薬、政府機関など、非常に機密性の高い情報を日常的に取り扱う業界では、ZTNAのような厳格なアクセス制御が必要不可欠です。VPNのように、一度接続されれば社内ネットワーク全体にアクセスできる仕組みでは、内部不正や情報漏えいのリスクを完全には排除できません。
ZTNAであれば、業務に必要なアプリケーションへのアクセスだけを許可する「最小権限モデル」が実現可能です。
たとえば、医療機関であれば、カルテ管理システムにだけアクセスできるように設定し、他の診療報告書や会計情報にはアクセスできないようにする、といった粒度の細かい制御が可能です。これにより、仮に一部のID情報が漏えいした場合でも、影響範囲を限定できます。
リモートワーク・ハイブリッドワークを導入している企業
出社と在宅勤務を組み合わせたハイブリッドワークが定着した今、ZTNAはその柔軟性と安全性の両面から、最適なソリューションといえます。VPNのように社内LAN前提の設計では、在宅や外出先からのアクセスに対応しきれず、接続のたびにユーザーの負担が増してしまいます。
ZTNAはアクセス元が社内でも社外でも、同じセキュリティポリシーを適用できます。
たとえば、自宅のPCから社内の業務アプリへアクセスする場合でも、企業が定めたポリシー(MFA必須、OSバージョン確認済みなど)をクリアすれば問題なく接続できます。しかも、VPNのようにトンネルを張る必要がないため、レスポンスも良く、ユーザー体験を損なうことがありません。
M&Aや多拠点展開が多く、ネットワーク統合が現実的に困難な企業グループ
製造業や大手商社、グローバルに展開する企業グループでは、各拠点・子会社ごとにネットワーク構成やセキュリティポリシーが異なるケースがよくあります。こうした場合、VPNで全拠点を一括管理するには統合のための大規模な投資が必要となり、現実的ではありません。
ZTNAなら、アプリケーション単位でのアクセス制御が可能なため、ネットワークそのものを統合する必要がありません。たとえば、本社の営業支援システムにだけ、グループ会社の特定部門がアクセスできるといった設定を行えます。ネットワークを統一せずとも、業務単位での柔軟な連携が可能になるのです。
ZTNAの導入は単なるシステムの切り替えではなく、自社の業務やセキュリティポリシーを見直し、ゼロトラストの原則を具体化するプロセスです。ここでは、ZTNAを導入する際に踏むべき5つのステップを解説します。
STEP2:アクセス制御ポリシーとセグメントの設計
続いて、ユーザーごとにアクセス制御のポリシーを定義します。
ユーザーの所属部門、役職、利用端末の状態、接続元IPなどの条件に基づき、どのアプリケーションに、どのような方法でアクセスできるかを設計します。
あわせて、アプリケーション単位でネットワークを細かく分割(マイクロセグメンテーション)する設計も重要です。たとえば、経理システム、顧客管理システム、チャットツールなどをそれぞれ分け、ユーザーに応じて個別にアクセス可否を設定します。
SSO(シングルサインオン)やMFA(多要素認証)をどう連携させるか、IdP(アイデンティティプロバイダ)との関係性もこの段階で整理しておくべき要素です。
STEP3:ZTNAソリューションの選定とPoC実施
ZTNAには多様な製品があります。クラウド型で迅速に導入できるもの、オンプレミスで自社インフラと連携しやすいもの、それぞれの特長と自社ニーズのマッチ度を比較検討します。
既存のIdPと連携可能かも重要な選定基準です。そのうえで、小規模な範囲(例:1つの部署や1つの業務アプリ)でPoC(概念実証)を実施し、ポリシー設計や運用フローに問題がないかを検証します。
STEP4:段階的な本番導入と統合
PoCで得た知見をもとに、ZTNAの本番導入を段階的に進めます。リスクの高いアプリケーションや社外からのアクセスが多い領域から優先的にZTNA化し、既存VPNとの並行運用を行いながら移行しましょう。
セッション管理やアクセスログの取得体制を整え、不審な振る舞いがあった場合には即座に検知・対応できる体制を整備します。これにより、従来のVPNと比べて、より粒度の高いセキュリティ監視が実現します。
STEP5:運用とポリシーの最適化
ZTNAは導入して終わりではありません。運用フェーズでは、実際の利用状況を定期的に分析し、アクセスポリシーの見直しを継続的に行うことが重要です。業務内容の変化やユーザー属性の変更に応じて柔軟に対応できる仕組みが必要です。
また、ふるまいベースで異常を検知し、自動で再認証を要求するロジック(異常検知型MFA)、リアルタイムでアクセスの正当性を評価する継続的認可なども、段階的に取り入れるとゼロトラストの実現度がさらに高まります。
ZTNAについて調べる中で、多くの情シス担当者が疑問に思うポイントをQ&A形式でまとめました。ここでは、導入前によくある基本的な質問に簡潔にお答えします。
ZTNAは、ゼロトラストの考え方に基づいて設計されたネットワークアクセス制御の仕組みです。ユーザーやデバイスを信頼せず、すべてのアクセスを都度検証し、必要最小限のリソースにのみ接続を許可します。
ZTNAの主な特徴は何ですか?
主な特徴は、「アプリケーション単位でのアクセス制御」「継続的な認証」「詳細なログの取得」「クラウド前提の設計」などです。これにより、従来のVPNよりもセキュリティと柔軟性の両立が可能になります。
VPNとZTNAの違いは何ですか?
VPNはネットワーク全体への接続を許可する仕組みであるのに対し、ZTNAは業務アプリケーションごとにアクセスを制御します。また、ZTNAはVPNのようなトンネル構築が不要で、クラウド環境との相性も良好です。
SDPとZTNAの違いは何ですか?
SDP(Software Defined Perimeter)はZTNAの技術要素の1つと位置付けられます。SDPはネットワークの境界をソフトウェアで再定義する考え方であり、ZTNAはそれを包括的なアクセス管理の仕組みとして発展させたものです。
ZTNAとSWGの違いは何ですか?
SWG(Secure Web Gateway)はWebアクセスをフィルタリングして安全性を確保する仕組みであり、ZTNAとは用途が異なります。ZTNAは業務アプリケーションへのアクセス制御に特化し、SWGは外部Webへの接続を監視・制限するために使われます。
ZTNAは未来に備えるための投資であると同時に、現状のセキュリティ課題を解決するための現実的なソリューションでもあるのです。
しかし、たとえZTNAを導入していても、情報漏えいや認証情報の流出が発生するリスクをゼロにはできません。特に近年では、企業のID情報やパスワードがダークウェブ上で売買されているケースが急増しており、こうした外部リスクを早期に察知することが、インシデント対応の初動として極めて重要です。
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