なぜ病院が狙われる?サイバー攻撃の手口・事例・対策を徹底解説 | |
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作成日時 25/05/07 (09:25) | View 75 |
近年、サイバー攻撃の被害が深刻化する中で、特に医療機関が標的となるケースが増加しています。ある日突然、電子カルテにアクセスできなくなり、診療がすべて停止。職員はパニックに陥り、患者への対応もままならない。そんな現実に起きている事例が国内外で相次いでいます。
医療の現場は、一分一秒を争う緊急性の高い業務が日常です。しかし、病院のITセキュリティに目を向けると、十分な予算も人材も確保されていない。このような「命を支える現場」と「脆弱なデジタル環境」のギャップが、攻撃者にとって格好の標的となっているのです。
とりわけ注目すべきは、病院が保有する膨大かつ高価値な情報資産。電子カルテや保険情報、患者の個人データなどは、ダークウェブ市場において高値で取引され、サイバー犯罪者にとって儲かる標的であることが明白です。
本記事では、なぜ病院が狙われるのかという構造的な背景から、代表的な攻撃手法、実際の被害事例、そして医療機関が取るべき実践的な対策までを徹底的に解説します。
「自分の病院は大丈夫」と思っていませんか? その油断こそが最大のリスクです。医療の安全と信頼を守るため、まずは敵の手口と自院の弱点を知ることから始めましょう。
サイバー攻撃の被害は年々深刻化しており、特に医療機関が狙われる傾向が顕著です。では、なぜ攻撃者は数ある業種の中から病院を標的にするのでしょうか。その背景には、「高額な情報資産」「構造的なセキュリティの脆弱性」「人命に直結する業務特性」という3つの要因があります。
病院は、個人情報の中でも特に機密性の高いデータを大量に保有しています。
たとえば、電子カルテには患者の病歴や処方履歴、診療記録などが詳細に記録されており、これは一般的な企業の顧客データとは比較にならないほどの機密性を持ちます。
さらに、保険証番号や連絡先、決済情報といった金融情報と紐づいたデータも含まれるため、その価値は非常に高く、ダークウェブでは1件あたり数千円〜数万円で取引されることもあります。
一方で、他業界のように情報保護のための厳格なデータ分類や漏えい対策が制度化されていない医療機関も多く、結果として「高価値なのに守りが甘い」という構図が生まれているわけです。
医療機関では、セキュリティよりも診療や患者対応といった業務が優先されがちです。
特に中小規模の病院では、IT予算の確保が難しく、専任の情報セキュリティ担当者が不在というケースも少なくありません。こうした環境では、システムの老朽化やパッチ未適用のまま運用が続けられていることもあり、脆弱性が放置されやすい状況にあります。
また、医療業界はITの外注依存度が高く、情報管理のガバナンスが組織内で完結していないというリスクもあります。これは、サプライチェーン攻撃(取引先経由での侵入)といった高度な攻撃手法の温床にもなりえます。
病院のシステムは、単なる業務支援の枠を超えて、人命を左右する重要インフラとして機能しています。
電子カルテが使用不能になれば診療や手術ができなくなり、命に関わるケースも発生します。このため、サイバー犯罪者にとって病院は、「身代金を払わざるを得ない可能性が高い」ターゲットと見なされています。
攻撃者はこのような交渉余地のある業界を精緻に分析した上で、標的を定めているのです。
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病院がサイバー攻撃の標的になる背景には、高額な情報資産や業務の特殊性がありますが、攻撃手法もまた多様化・高度化しています。ここでは、医療機関が特に注意すべき4つの主要な手口について解説します。それぞれの攻撃は異なるアプローチを取りつつも、最終的には業務の停止、情報の流出、信頼の毀損といった深刻な被害をもたらします。
ランサムウェアは、攻撃者が病院のシステムやファイルを暗号化し、復旧のための身代金を要求するマルウェアです。攻撃後、システムに「このデータを復元したければ○○円を仮想通貨で支払え」といったメッセージが表示され、病院の業務が完全に停止してしまうケースが頻発しています。
医療機関においてランサムウェアの被害は単なる業務妨害では済まず、人命にまで影響が及ぶ危険性があります。
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攻撃者は医療従事者のメールアカウントに偽装したメールを送り、添付ファイルやリンクをクリックさせることでマルウェアに感染させます。たとえば「検査結果の確認」「業者からの請求書」など、日常業務に紛れる内容で巧妙に誘導するため、セキュリティ教育が不十分な職員ほど騙されやすい傾向にあります。
この種の攻撃は再現性が高く、病院ごとに攻撃対象を変える手間も少ないため、広く使われています。感染後はメール経由で他の端末に拡散し、ネットワーク全体が麻痺することも珍しくありません。
分散型サービス拒否(DDoS)攻撃は、外部から膨大な通信リクエストを送りつけてWebサーバーや業務システムをダウンさせる手法です。外来予約システムや患者ポータルサイトが利用不能になり、患者対応に支障が出るといった実害が出ます。
また、病院の公式Webサイトが改ざんされ、偽の情報や不適切な画像が表示されるケースもあります。これは病院のブランドイメージに直接打撃を与えるため、風評被害や信頼低下を引き起こす要因となります。
外部からの攻撃だけでなく、内部職員の操作ミスや不正行為も大きなリスクです。たとえば、職員が患者情報の入ったUSBメモリを紛失したり、複数のシステムで同一のパスワードを使い回した結果、認証情報が漏洩するといった事例が後を絶ちません。
また、退職者のアカウントを削除し忘れていたことで、外部から不正アクセスを受けたケースもあります。サイバー攻撃というと「外部からのハッキング」と捉えられがちですが、人為的ミスこそが最大の入り口であることを、医療機関は再認識する必要があります。
病院がサイバー攻撃を受けた際、その被害は単にシステムが停止するだけにとどまりません。医療現場という公共性の高い領域においては、被害が患者の命や組織の信頼性、経済的基盤にまで及ぶため、他業種と比べても影響は極めて深刻です。ここでは代表的な4つの影響を解説します。
もっとも直接的な影響は、電子カルテや予約システム、画像診断装置など、日々の診療を支える基幹システムが使用不能になることです。ランサムウェアによってファイルが暗号化された場合、復旧までに数日〜数週間かかることも珍しくありません。
これにより、外来診療・入院管理・手術スケジュールの調整などが滞り、患者の受け入れが制限される、または完全に停止するという非常事態が発生します。特に救急医療や集中治療が求められるケースでは、他院への転送を余儀なくされ、地域医療の機能に連鎖的な影響を与えることもあります。
医療機関が保有する患者情報は極めてセンシティブです。氏名や住所に加え、病歴や処方履歴、検査結果などが含まれるため、漏えいした場合のプライバシー侵害の度合いは深刻です。とくに感染症歴や精神科通院歴など、本人が公開を望まない情報がネット上に拡散された場合、個人への社会的影響や名誉毀損に発展する可能性があります。
近年では、攻撃者が「データ公開型ランサムウェア」によって、支払いに応じなければ情報を外部に晒すと脅す事例も増えています。これにより、病院側は金銭的な負担だけでなく、患者との信頼関係そのものが破壊されるリスクに直面するのです。
システム障害による診療停止は、そのまま利益の喪失を意味します。加えて、被害の調査・復旧にかかる人件費やインフラ再構築費、外部専門家への依頼費など、多額の復旧コストが必要となります。
さらに、患者からの損害賠償請求や、再発防止のための追加投資も求められることから、数千万円〜数億円単位の損害に発展するケースもあります。特に経営基盤が脆弱な中小病院にとっては、こうした経済的打撃が倒産に直結する可能性すらあるでしょう。
一度失った信頼を取り戻すのは困難です。情報漏えいや診療停止が報道されれば、地域住民からの不信感や他医療機関からの紹介停止といった風評被害が広がる可能性があります。
また、初動対応や再発防止策が不十分な場合、「再び狙われやすい組織」としてマークされるリスクもあります。攻撃者は過去に成功した標的を繰り返し狙う傾向があるため、一度の被害が継続的な脅威を呼び込む危険性があるのです。
「うちは大丈夫だろう」と思っていませんか?
残念ながら、そのような過信こそが最大のリスクです。実際、日本国内でも病院が深刻なサイバー攻撃の被害を受ける事例は年々増加しており、しかもその多くが中小規模の病院で発生しています。
たとえば、2022年10月に大阪の大阪急性期・総合医療センターが受けたランサムウェア攻撃は、全国の医療機関に衝撃を与えました。攻撃により電子カルテシステムが完全に停止し、外来診療や手術のスケジュールに大幅な支障が出ました。
復旧には約2カ月を要し、その間の診療報酬の収入減、システム再構築の費用、患者への対応などで病院は甚大な経済的・社会的損失を被りました。
このような事例は決して例外ではありません。特に医療機関は、セキュリティ対策が不十分なまま高度なITシステムを運用しているケースが多く、今後も攻撃の標的となる可能性が極めて高いのです。
他にも複数の事例が報告されています。詳しくは以下の記事でご確認ください。
病院へのランサムウェア攻撃 国内事例3選とセキュリティ対策を解説
サイバー攻撃の脅威が現実となっているいま、病院が取るべきは万が一への備えではなく、日常的なセキュリティ体制の構築です。特に医療機関は業務特性上、セキュリティ対策が後手に回りやすい構造を抱えているため、以下の5つの観点から優先的に対策を講じるようにしましょう。
最初に取り組むべきは「人」に関する対策です。
サイバー攻撃の多くは、フィッシングメールの誤クリックや、外部USBの無断使用、弱いパスワードの使い回しといったヒューマンエラーが入口となっています。
そのため、すべての職員に対して定期的なセキュリティ研修やシミュレーション訓練を実施することが重要です。たとえば、「本物そっくりなフィッシングメール」にどう対応するかといった実践形式のトレーニングは、職員の危機感と判断力を養う上で有効でしょう。
システムやデータへのアクセスは、「誰が、いつ、どこから、何にアクセスできるか」を明確に管理し、アクセス権利の付与範囲を抑える最小権限の原則を徹底しましょう。とくに電子カルテなどの機密性が高いデータには、多要素認証(MFA)の導入が効果的です。
また、退職者のアカウント削除漏れや、共有IDの乱用といった事例は非常に多いため、ID管理システムの導入や棚卸の定期化も推奨されます。
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バックアップは「取っている」だけでは不十分。重要なのは、復旧が実際に機能するかどうかを定期的に検証することです。
理想的には、主要なシステムやデータについては日次バックアップを行い、月次で復旧テストを実施する体制を構築しましょう。また、バックアップデータは本番環境と論理的・物理的に分離して保管することで、ランサムウェアによるバックアップごと暗号化される被害も防げます。
古いOSやソフトウェアには、既知の脆弱性(セキュリティホール)が存在することが多く、そこを狙った攻撃は極めて多く報告されています。
しかし、医療機器に付属する専用端末や、外注ベンダーが提供するシステムでは「アップデートがしにくい」「勝手に変更できない」といった課題もあるのではないでしょうか。
そのため、IT資産管理と脆弱性管理ツールを用いた定期スキャンとパッチ適用フローの整備が重要になります。
サイバー攻撃を完全に防ぐことは、どれだけ高度なセキュリティ対策を講じていても現実的には困難です。攻撃者は日々手口を巧妙化させており、どんなに堅牢なシステムでも、思わぬ脆弱性を突かれる可能性があります。
そのため、病院にとって重要なのは攻撃されないことではなく、攻撃を受けたときにいかに速やかに被害を抑え、復旧できるかというサイバーレジリエンスの視点が重要です。
そこで必要となるのが、サイバー攻撃発生時の具体的な対応フローを定めたインシデント対応マニュアルの整備です。たとえば、以下のような要素を明文化しておくことが推奨されます。
● インシデントと見なす基準や判断ポイント
● 感染端末のネットワーク遮断やシステム隔離などの初動対応
● 連絡体制(誰が、どこに報告するか)
● 証拠保全のためのログ取得・保存方法
● 関係機関(厚労省、警察、セキュリティベンダー等)への通報手順
● 患者やマスコミに向けた広報対応の指針
さらに、情報漏えいのリスクを最小限に抑えるためには、事後対応だけでなく、ダークウェブ上での情報流出を早期に検知する取り組みも有効です。実際、ランサムウェア攻撃の多くは「データをばらまく」と脅す二重脅迫型が主流となっており、患者データや医療記録がダークウェブで売買されるケースも報告されています。
そのため、ダークウェブ監視ツールの導入により、自院の情報が不正に流通していないかを継続的にモニタリングする体制も、インシデント対応の一部として位置づけるべきです。
こうしたマニュアルと監視体制は、ただ整備するだけでなく、定期的に見直し、職員全体でシミュレーションを行うことで実効性を高める必要があります。
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最後に病院とサイバー攻撃に関するよくあるQ&Aをご紹介します。
A. 電子カルテなどの個人情報が高額で売れるうえ、業務停止が命に関わるため、身代金を支払う可能性が高いと見なされるからです。
A. 最も多いのはランサムウェアです。感染するとシステムが暗号化され、復旧のために金銭を要求されるケースが多発しています。
A. 外来・手術の中止、患者データの流出、金銭的損害、信頼失墜など深刻な影響が出ます。復旧まで数週間かかる場合もあります。
A. はい。セキュリティが手薄な中小病院は「狙いやすい標的」と見なされやすく、被害件数も増加しています。
A. 被害の拡大を防ぐために、ネットワーク遮断・関係機関への通報・ログの保存・外部専門家への相談が重要です。
A. まずは職員教育から。フィッシングやUSB感染など、人由来のトラブルが多いため、意識向上が最優先です。
A. 理想は毎日。重要システムのバックアップは週1以上が推奨されます。加えて、定期的な復元テストも必要です。
病院はサイバー攻撃の格好の標的です。保有する情報資産の価値の高さ、予算や人材の制約からくるセキュリティの脆弱性、そして業務停止が命に直結するという特殊な事情が、攻撃者にとって非常に「都合のよいターゲット」となっているのです。
現に、国内外でランサムウェアやフィッシングメールによる深刻な被害が多発しています。
電子カルテが使えず診療が止まり、患者情報が漏えいすれば、病院の信頼は地に落ちます。
これは遠い世界の話ではなく、明日、自分の病院に起こるかもしれない現実です。対策の第一歩は、現実を直視すること。そして、職員教育や多要素認証、バックアップの体制整備、インシデント対応マニュアルの構築といった、基本的でありながら本質的な取り組みを一つずつ積み重ねることです。
そして、万が一の情報流出を早期に察知するためには、ダークウェブ上で自院の情報が不正に流通していないかを監視する体制も欠かせません。弊社では、ダークウェブ監視ツール「StealthMole」を提供しており、無料トライアルも実施しています。すでに情報漏洩が発生しているリスクは十分にあります。ぜひ無料トライアルでリスクを可視化していただければと思います。