なぜ日本はサイバー攻撃の標的になるのか?その理由と狙われやすい業界・対策まで徹底解説 | |
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作成日時 25/06/10 (08:17) | View 106 |
近年、日本企業や公共機関を標的としたサイバー攻撃が急増しています。実際、日本は年間に6,000億回もの攻撃を受けており、その数は世界でもアメリカに次ぐ多さです。
その攻撃は、もはや他人事ではありません。
標的は大企業に限らず、中小企業や医療機関、大学・研究機関など多岐にわたります。これまで「日本語が通じにくいから安全」とされていた神話も、生成AIの進化によって崩壊し、いまや誰もがフィッシング詐欺やマルウェアの標的になりうる時代です。
本記事では、日本がなぜこれほどまでにサイバー攻撃を受けているのか、その根本的な理由を紐解くとともに、特に狙われやすい業界、主な攻撃手法、そして企業が講じるべき実践的な対策までを網羅的に解説します。
日本は、世界の中でもサイバー攻撃の標的として極めて高い注目を集めている国です。
国立情報通信研究機構(NICT)によれば、日本国内のネットワークに対して観測されたサイバー攻撃関連の通信は、年間6,000億回を超える規模に達しています。この数値は、アメリカに次いで世界第2位の水準であり、「サイバー攻撃大国」とも呼ばれるアメリカと肩を並べるレベルにあることを示しています。
このような攻撃の多さは、一過性の事件によるものではありません。ここ数年で明らかに攻撃の質と量の両方が増加しており、対象も多様化しています。
たとえば従来は政府機関や大手企業が狙われていた傾向が強かったものの、近年では中小企業、医療機関、教育機関、さらには個人にまで攻撃の矛先が広がっています。攻撃者にとっては、「防御の手薄なターゲットこそ効率的に成果が得られる」という合理的な計算が働いているためです。
なぜこれほどまでに日本はサイバー攻撃の標的となっているのでしょうか。以下では、その代表的な3つの要因を詳しく解説していきます。
かつては日本語という特殊な言語がサイバー攻撃のバリアとなっていました。
しかし、生成AIの登場と進化によって、サイバー攻撃の様相は劇的に変化しました。攻撃者は、ChatGPTをはじめとする多言語対応型AIを活用し、母語が日本語でないにもかかわらず、非常に自然で信頼感のある日本語文章を自動生成できます。
この変化は、特にフィッシング詐欺や標的型メール(スピアフィッシング)の領域で顕著です。
以前は「不自然な日本語」や「海外送信元のアドレス」などが不審要素として機能していましたが、いまや日本企業からの連絡と見分けがつかないメール文面が大量にばらまかれています。
メール本文だけでなく、SMS、チャットアプリ、さらにはWebページやFAQまでがAIで作成された精巧な日本語になっているケースも珍しくありません。
日本がサイバー攻撃の標的となる最大の理由のひとつが、世界的に見ても価値の高い知的財産を数多く保有している国であるという点です。
とりわけ製造業、研究開発型企業、大学や公的研究機関などが持つ技術情報や設計データ、試作品情報、アルゴリズムなどは、攻撃者にとって極めて魅力的なターゲットです。
自動車や半導体、医療機器、化学素材、再生エネルギーといった分野における日本企業の技術水準は、いまなお世界トップクラスに位置づけられています。こうした高度な技術情報は、競争力の源泉であり、その流出は企業の経営に直接打撃を与えるだけでなく、国家全体の産業競争力にも影響を及ぼします。
さらに近年、ダークウェブ上での日本人の個人情報の価格も急騰しています。
機密情報、従業員のパスワード、購買履歴、病歴、学歴、取引記録といった属性情報がセットで出回るケースが多く、それらが「攻撃の下準備」として利用されているのです。個人情報の質が高ければ高いほど、フィッシング詐欺やなりすましによる内部侵入が容易になります。
日本がサイバー攻撃を受けやすいもう一つの大きな要因は、全体的なセキュリティ対策の遅れと、組織の「入り口」にあたる部分の脆弱性にあります。特に中小企業や地方自治体においては、十分な予算や専門人材を確保できず、対策が後手に回っている現状が顕著です。
多くの企業は「セキュリティ対策=ウイルス対策ソフトの導入」程度にとどまっており、メール認証、アクセス権限の最小化、パッチ管理、ログ監視といった多層的なセキュリティ設計ができていません。
加えて、セキュリティポリシーや教育体制も整っておらず、従業員が不審メールを開いたり、クラウドストレージに無防備なまま社外秘資料を保存したりするケースが後を絶ちません。
特に問題視されているのが、サプライチェーンを介した攻撃です。
これは、大企業そのものではなく、その取引先や下請け企業といったセキュリティの弱い企業を経由して攻撃を仕掛ける手法で、ここ数年で急増しています。
さらに深刻なのが、IT人材の絶対的な不足です。経済産業省の試算によると、日本では2030年までに最大79万人のIT人材が不足するとされており、セキュリティ専門職はその中でも特に採用・育成が難しい分野とされています。
その結果、多くの企業では「担当者がいない」「知識が追いつかない」「外部に依頼する予算がない」といった理由で、最低限の防御すら不十分な状態が続いています。
以下では、特に攻撃対象となりやすい5つの主要業界について深掘りしていきます。
製造業は、日本の経済と技術力を支える中核産業であり、同時にサイバー攻撃者にとって非常に魅力的な標的です。特に自動車、半導体、化学、精密機器などの分野では、高度な設計図や製造ノウハウ、試作情報、取引先データなどの知的財産が集中しています。
これらの情報は、競合企業や国家規模での経済的優位性を狙う勢力にとって、金銭的価値だけでなく戦略的価値をも持っています。
また、近年ではスマートファクトリー化の進展により、製造現場がIoTと密接に結びつくようになりました。これにより、工場内ネットワークや制御システム(OT: Operational Technology)がインターネットと接続され、従来では考えられなかった「工場停止」や「生産ラインの乗っ取り」といった物理的被害が現実の脅威となりつつあります。
金融業界は、サイバー攻撃者にとって最も直接的に「お金」につながる業界です。
銀行、証券、保険、フィンテックなどを含む広範な金融企業は、個人・法人の資産情報を大量に保有しており、その価値の高さゆえに常に標的にされています。攻撃の目的も、単なる不正送金や口座乗っ取りにとどまらず、顧客情報の大量窃取、株式操作、金融インフラの妨害など多岐にわたります。
加えて、金融業界では取引の即時性が重視されるため、障害発生やサービス停止がそのまま大規模な信用リスクに直結します。
DDoS攻撃やランサムウェアによってシステムが一時停止するだけでも、数十億円規模の損失が生じかねません。したがって、攻撃者にとっては経済的なインパクトと社会的混乱を同時に引き起こせる格好のターゲットです。
電力、水道、鉄道、航空、通信、自治体システムなど、日本の社会基盤を支えるインフラ業界と行政機関は、近年ますますサイバー攻撃の標的になっています。これらの業界は、攻撃者にとって「サービス停止による社会的混乱」を生み出しやすいという点で、戦略的に非常に重要視されています。
特に日本では、古いIT基盤(レガシーシステム)を使い続けている自治体やインフラ企業が多く、パッチ未適用や脆弱性の放置が深刻な問題となっています。
こうした脆弱性を突く攻撃は、国家ぐるみで行われるサイバー戦略の一環としても位置づけられており、防衛上の観点からも喫緊の対策が求められています。
医療業界もまた、サイバー攻撃者にとって魅力的な標的です。
特に病院は、患者の病歴、処方情報、保険情報といった極めて機微な個人情報を大量に保有しており、それらのデータはダークウェブにおいて高値で取引されます。また、医療現場の混乱は人命に直結するため、ランサムウェアによって電子カルテや予約システムを停止させることで、身代金の支払い圧力を高める戦術も常態化しています。
日本国内でも、病院がランサムウェア攻撃を受けて数週間にわたり診療記録にアクセスできなくなり、手書き対応を余儀なくされた事例が複数報告されています。こうした被害は、情報漏洩という点ではなく、「医療サービスの継続性の破壊」という点で、社会的なインパクトが非常に大きいのです。
加えて、医療業界はIT担当者の常駐が少なく、また経営層のIT理解も限定的な場合が多いため、システム導入やセキュリティ更新が後回しにされる傾向があります。これは攻撃者にとっては絶好のスキマとなります。
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大学や研究機関もまた、深刻な標的と化しています。これらの機関は、国家プロジェクト、最先端技術、軍事転用可能な研究など、極めて価値の高い知的成果物を多数保有しており、それが攻撃者の目的と合致するためです。
たとえば、量子コンピューティング、AI、バイオテクノロジー、宇宙開発などの分野では、大学との共同研究や助成研究が盛んであり、研究成果の流出は国家レベルの安全保障にも影響を及ぼしかねません。
さらに問題なのは、大学のネットワークが開放性と利便性を重視しすぎていることです。学術研究の自由を担保する一方で、学内の多様な端末・利用者が混在しており、セキュリティポリシーの徹底が難しいという構造的課題を抱えています。この状況は、攻撃者にとって入りやすく、価値のある情報が多い環境を提供してしまっているのです。
日本を標的としたサイバー攻撃において多く確認されている4つの主な手法について、その仕組みや特徴を解説していきます。
ランサムウェアとは、マルウェア(悪意あるソフトウェア)の一種で、感染したコンピュータやサーバー内のファイルを暗号化し、元に戻すための「身代金(ランサム)」を要求する攻撃です。
近年では、「二重恐喝型」と呼ばれる手法も一般化しており、データを暗号化するだけでなく、窃取した情報を「公開されたくなければ金を払え」と脅す形式が増えています。
日本では特に病院や製造業、自治体が標的にされるケースが多く、患者の診療記録や設計データ、行政文書が一時的にアクセス不能になり、業務継続が困難となる深刻な事例が相次いでいます。
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DDoS(分散型サービス妨害)攻撃は、複数の端末から一斉に大量の通信リクエストを送ることで、ターゲットのサーバーやネットワークを過負荷にし、サービスを一時的にダウンさせる攻撃です。一般的にWebサイトやオンラインサービスが対象となりますが、APIや業務システムも標的になることがあります。
DDoS攻撃の特徴は、攻撃が一時的でも企業の信用に大きな傷を残すことです。
たとえばECサイトであれば「アクセスできない」というだけで売上を大きく損ない、長期的な顧客離れにもつながります。また、DDoSは他のサイバー攻撃の目くらましとしても使われるため、裏で別の侵入や情報窃取が行われているリスクも無視できません。
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スピアフィッシングは、特定の個人や組織を狙って送信される精巧なメール型攻撃です。一般的なフィッシング詐欺とは異なり、受信者の氏名、所属、業務内容などが調査された上で文面が作成されるため、見分けが極めて困難です。
特に日本では、生成AIの進化によって日本語の壁がなくなった結果、非自然で違和感のないメール文面が自動生成できるようになり、攻撃成功率が飛躍的に向上しています。
脆弱性スキャンとは、企業や組織のネットワークやWebシステムに存在するセキュリティの「穴(脆弱性)」を自動的に検出し、その情報をもとに攻撃を仕掛ける手法です。
いわば侵入の「下調べ」にあたる行為であり、攻撃者にとってはコストが安く、成果が得られやすいアプローチです。
日本では、アップデートが遅れているシステムや、古いCMS、無効なSSL証明書などが狙われやすく、こうした見えやすい穴から内部ネットワークに侵入されるケースが増加しています。
また、セキュリティパッチが未適用のまま放置されたVPN装置やルーターは、サプライチェーン攻撃やランサムウェアの初動侵入経路として頻繁に利用されており、システム管理者が知らない間に踏み台として使われるリスクもあります。
このような攻撃に対しては、継続的な脆弱性管理と監視の仕組みが不可欠であり、セキュリティベンダーとの連携や外部診断の導入も重要です。
ここでは、日本企業が実践すべき具体的なサイバー攻撃対策を5つの観点から解説していきます。
サイバー攻撃の多くは、実は「人の操作ミス」から始まります。
なかでも、フィッシングメールや標的型攻撃メールの開封、不審なリンクのクリック、社外持ち出しデータの無防備な保存など、従業員の日常的な行動が初動侵入の入口となるケースは少なくありません。
そのため最も基本かつ重要な対策が、全社員を対象としたセキュリティ教育の徹底です。
たとえば「メールの差出人ドメインを確認する」「USBメモリを安易に挿さない」「出張先ではVPNを使う」といった具体的な行動指針を定期的に教育・訓練することで、企業全体のリスク耐性は大きく向上します。
重要なのは、IT部門だけでなく、現場の社員一人ひとりが「自分も守る側の一員」であるという意識を持てるようになることです。
「社内ネットワークは安全」という前提が成り立たなくなった現代において、ゼロトラスト(Zero Trust)セキュリティの考え方は不可欠です。これは、すべてのアクセスを信頼しない前提で設計し、常に確認・検証を行いながら接続を許可するというアプローチです。
たとえば、特定の業務に関係ない社員が機密フォルダへアクセスできる状態を放置していると、それだけで攻撃者の動線を広げることになります。したがって、役職や業務内容に応じたアクセス権の最小化を徹底し、重要データへの接触を限定的にすることで、万が一侵入された場合でも被害を局所化できます。
また、多要素認証やログイン時のIP制限、VPNの限定使用、端末ごとのアクセス認証などを組み合わせれば、「境界防御」から「動的制御」へとセキュリティ設計を進化させることが求められています。
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デジタル化が進むほど、データこそが事業継続の命綱になります。ランサムウェアによってファイルが暗号化された際、バックアップがなければ、復旧のために高額な身代金を支払わざるを得なくなります。
そのため、業務システム、ファイルサーバー、クラウド環境など、あらゆる情報資産に対して定期的なバックアップの自動化と復元手順の検証が不可欠です。特にクラウドサービスを利用している場合は、「クラウドに任せているから安心」ではなく、どこまでの復旧責任が提供事業者側にあるのかを明確に理解した上で、自社側でもバックアップを設計すべきです。
さらに、バックアップは同一ネットワーク上に保存せず、分離された場所に保管することも重要です。攻撃者が社内ネットワークに侵入した際、バックアップごと破壊されるケースも少なくないためです。
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近年急増しているのが、取引先や業務委託先を経由した間接的な侵入です。特に大企業では、数百~数千に及ぶ外部ベンダーとデータ連携しており、その中にセキュリティ水準の低い企業が含まれていれば、それが重大なリスク源となります。
このようなサプライチェーンリスクに対応するためには、まず取引先に対するセキュリティ水準の確認と管理が必要です。委託契約時にセキュリティ対策の有無を確認し、定期的な監査やチェックシートを実施することが第一歩です。
どれだけ対策を講じても、「100%防げるセキュリティ」は存在しません。したがって、攻撃を受けた際の対応力(サイバーレジリエンス)が、被害規模と信用維持を左右する決定的な要因になります。
特に重要なのが、情報漏洩や不正アクセスが発覚した際の初動対応マニュアルの整備と訓練です。速やかにインシデントを特定し、社内外への連絡体制を整備することで、二次被害や社会的炎上を防げます。
また、近年注目されているのが、定期的なダークウェブの監視です。
攻撃者にデータを盗まれた際、その情報は高確率でダークウェブ上で売買されます。企業が自社関連情報を継続的に監視することで、「すでに漏れてしまった情報」にいち早く気づき、顧客への通知や対策のスピードを高めることが可能になります。
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日本は、年間6,000億回を超えるサイバー攻撃を受ける世界でも有数の「狙われる国」です。その背景には、生成AIの発展による言語の壁の消失、国際的に価値の高い知的財産の集中、そして構造的なセキュリティ対策の遅れといった複合的な要因が存在します。
特に製造業、金融、医療、インフラ、研究機関といった業界は、攻撃者にとって「入りやすく、奪いやすい」標的として認識されており、実際の被害も後を絶ちません。
そのような状況下で日本企業に求められるのは、攻撃されることを前提としたセキュリティ体制の構築です。
特に近年では、盗まれたデータがダークウェブで取引されるケースが急増しており、定期的なダークウェブ監視もセキュリティ対策の一環として注目を集めています。いち早く流出を察知できれば、被害の拡大を防ぎ、顧客への信頼維持にもつながります。
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